新型コロナウイルス感染症で人類が苦しめられています。緊急事態宣言が出た日本も例外ではありません。治療薬の無い感染症です。感染により呼吸機能が悪化して人工呼吸器やECMO(笑った時に出来るエクボではありません、念のため)などの治療を開始されても、人工呼吸器やECMOが感染を治してくれるわけではありません。あくまでも、呼吸の補助手段で全身に酸素が行き渡っている間に、自分の力で肺のウイルスに打ち勝たなければなりません。
私にとってECMOは特別な思い入れがあります。大学院での研究テーマがECMOでした。その頃、というか新型コロナウイルス感染症が全世界に広まり、その治療でECMOが取り上げられるまでほとんど世間には知られることのない治療方法でした。日本でのECMOは心臓外科の術後や心不全に対する体外補助循環装置で使うことが殆どでした。今まで、呼吸器感染症でECMOを使用することは多くありませんでした。
ECMOは膜型肺という米国で開発された人工肺を使い、体外循環装置に膜型人工肺を組み込んだ機械です。心臓を止めて手術をする際にも膜型肺を用いた体外循環装置を使いますが、ECMOはよりコンパクトで安全でより長期間使える装置になっています。本場の米国では循環器疾患のみならず、呼吸器疾患でも度々ECMOを使用し、ECMOセンターを持つ病院もあります。日本では適応基準が難しい上、機械の使用に慣れているチームでの医療になるため使用頻度は米国と比べると非常に少数でした。ただ、日本には誇るべき技術力があり、米国の膜型肺に比べ、より小さく、より耐久性がある人工肺を作ることが出来ました。ECMOを研究している頃の私は、日本製で体内に埋め込むことが出来るような人工肺の開発を夢見ていました。
ECMOセンターを持ち、世界のECMOの中心である米国でECMOが足りない。人工呼吸器が足りないという状況は信じられません。日本より遥かに多くの呼吸器感染症のECMO治療をしていた米国が新型コロナ感染症を制御出来ないということは非常に恐ろしいことです。今の日本ではECMOの数を増やしても、呼吸機感染症でECMOを使える医療機関は非常に少ないのが現状です。日本で呼吸不全の方が増えてもECMOには限りがあると思った方が良いかもしれません。
これが今の日本のECMO事情です。緊急事態宣言が出ています。新型コロナウイルス感染症は非常に恐ろしい病気です。国民皆が「密閉空間」「密集場所」「密接会話」の“3つの密”を避けて感染が終息するまで頑張らなければなりません。今、皆で三密禁止と手洗いうがいをおこない、何としてでもこの危機を乗り切りましょう。