今年の冬は例年のような底冷えする日が少なく、コートやマフラーの出番が少ないようです。いつもなら、この時期になると手に「赤切れ」ができ、仕事中に手指消毒剤を使うと声には出せませんが「ぎゃー」と心で叫ぶ頃です。「赤切れ」防止のためにハンドクリームを朝から塗り込むのが常ですが、今年は「赤切れ」も一回だけで、ハンドクリームを使わない日もあります。私は助かっていますが、ウインタースポーツを楽しみにしている方は、暖冬に腹を立てているかもしれませんね。冬になると風邪が流行します。先日、内閣府が公表した世論調査で「ウイルスに抗生物質効かず」を理解している方は37%にとどまると発表されました。風邪をひいて、熱が出て、喉が痛いと抗生物質を内服する必要があると思われている方が多いようです。
まず風邪についてですが、成人で喉が痛くなる風邪の約9割はウイルス感染症です。インフルエンザもウイルス感染症です。ウイルスには抗生物質は効きません。抗生物質を内服して風邪が良くなったと言われる方もおられます。それは、抗生物質を5日間服用しているうちに、自分の免疫力でウイルスをやっつけていたのだと思います。インフルエンザなどの特定のウイルスには抗ウイルス薬がありますが、風邪などのウイルスは自分の免疫力で治すことが出来ます。喉が痛かったり、鼻水が出たり、咳が出たりする場合は、症状を抑える薬を内服することは問題ありません。
私も以前は安易に抗生物質を出していました。しかし現在、抗生物質の効かない「薬剤耐性菌」の出現が問題になっています。ペニシリンが開発され、人類は細菌感染からまぬがれるようになり、寿命が伸びました。しかし、地球上で人間だけが繁栄できるわけではありません。細菌も自分の子孫を残すため進化をしています。ペニシリンなどの抗生剤の効かない進化系の菌が増えて問題になっています。細菌感染で入院される方の多い病院では、時々多剤耐性菌による院内感染により複数の方が亡くなられるニュースを耳にします。薬剤耐性菌を作らないためには、抗生物質の適切な使用が必要です。乱用すると、細菌が着々と進化を続け、抗生剤の効かない体を手に入れてしまいます。ただ、扁桃腺炎や溶連菌感染、気管支炎や肺炎など、抗生物質を最初から使用しなければならない病気もありますので、抗生物質を全て止める必要はありません。医師の処方の下、必要な抗生剤を必要な量と必要な日数使用するのは問題ありません。困るのは、感染かもしれないからとか、予防のために手元の抗生物質を服用することです。風邪をひかないためには手洗い、うがい、咳エチケットなど感染しない努力が一番大切になります。