暑中お見舞い申し上げます。
今年の暑さは格別です。気温が体温以上になるということは、体にとっても想定外の事態です。暑い日は涼しく過ごしましょう。熱中症を起こすと、回復まで時間がかかります。熱中症を避けながら夏という季節を味わう方法はないものでしょうか。
昔話だからできる話(後編)
米国で人工肺の実験を開始して、やっと手技が安定した頃、その事件はおこりました。
その頃私は、実験でインディウムという放射性物質を使うため、大学内で放射性物質を扱うためのテストを受けたり、実験で動物を使用するため、動物を愛護的に扱う取り扱いの講義を受けたり、夜は夜で、英会話のレッスンに行ったりと多忙な日々を送っていました。なぜ、こんなに努力しなければならないのか?米国で博士論文を仕上げないと日本に帰れないからです。普通、留学は日本である程度実験して結果を出し、そのさらなる飛躍や応用のため、その分野のトップである施設にアプライし、許可がおりたら、留学というケースが多いですが、私の場合はその道順を大きくすっ飛ばし、ここに来てしまいました。その時、すっとばした過程をいっきに取り戻さなければならない状況になり悪戦苦闘していました。
6月のある日、白いウサギを使って人工肺の実験をすべく、ウサギに全身麻酔をかけ人工呼吸器をセットし、回路を装着しようと電機メスで剝離操作をしていた矢先、電機メスの先がオレンジ色に輝いたと思った瞬間に火花が飛び、ウサギの白い毛があっと言う間に炎に包まれてしまいました。何と人工呼吸器の回路と気管チューブのコネクターがはずれ、酸素が漏れていたのでした。ご存知のようにウサギの毛は柔らかく、細く、繊細でみるみるうちに燃えていきます。小学校の頃、理科の実験で酸素の中に熱したスチールウールをいれると、赤い炎をあげめらめらと燃えたのと同じように、あっと言う間に燃えました。次の瞬間、火災報知機とスプリンクーラーが作動し、大きいベルの音がスプリンクーラーからの水が雨の用に滴り落ちる中、建物中に響き渡っていました。火が消えると、まるで魔法をかけたかのように白ウサギは黒ウサギに変わっていました。
消防車まで出動した騒ぎで、私は白ウサギを黒ウサギに変えたマジッシャンにはなれましたが、数日後には日本に強制送還される事を覚悟しました。
その後どうなったのかって。あの頃の記憶は雲をかぶったようにぼんやりしてあまり思いだせません。ただ、アメリカは度量の大きな国でした。強制送還されることなく、二年間過ごすことができました。毛が燃える時、小学校の理科の実験で見た、スチールウールの炎を克明にスローモーションのように思い出した事を今でもはっきり覚えています。
黒いウサギは苦手です。マジックも苦手ですが、現在は、人の心がぱっと明るくできる魔法なら、勉強したい気分にはなっています。